びしょ濡れのKちゃんが教えてくれたこと
お客様のもとへ駆けつけると言われて、あなたならどんな行動を思い浮かべますか?
ホステスという仕事をしていると、お客様からは本当にたくさんのことを教わりますよね。
接客の技術だけじゃなく、人としてのあり方みたいな部分まで気づかされることが多い仕事だと思います。
中でも、Kちゃんの行動は、私の価値観を大きく変えてくれた出来事のひとつでした。
電話1本で駆けつけたKちゃんに爆笑
あるとき、私は泣きながらKちゃんに電話をかけたんです。いまとなっては、あのときなぜ泣いていたのか、理由はまったく覚えていないんですが。
私の涙声に驚いたKちゃんは、私の話を聞く前に「待ってろ、いますぐそっちに行くから、そこにいろよ」と言って、電話を切ったんです。
そして30分後、びしょ濡れの髪で、ケープを巻いたままのKちゃんが到着しました。表情は真剣そのもの。
私のほうが唖然としてしまって、泣いていたことも吹っ飛んで「なんでそんな格好してるのwww」と大爆笑。
すると、Kちゃんも「散髪してたんだよ、おまえが泣いて電話してくるから急いで来てやったのに笑うなよwww」と大爆笑。
涙が出るほど笑いましたが、とても心があたたかくなったことを覚えています。
この【私に何かあると飛んできてくれる人がいた】という経験は、私にとって本当に大きなものでした。
Kちゃんの行動で、暴力三昧だった家庭の中で、唯一守ってくれた祖父のことを思い出したんですよね。
本気で私のために何かしようとしてくれる人がいる。本気で私の言葉に耳を傾けようとしてくれる人がいる。私には、そういう人がいる。
そういう感覚を思い出して、私も祖父やKちゃんのような人間になろう、と思いました。
お客様の電話で駆けつけた夜
その後、お店で仕事をしていたら、あるお客様から電話がかかってきました。
「もしもし」と言ったお客様の声はいつもと変わりませんでしたが、なんとなく違和感があったんです。
どこか外にいる気配はわかるけど、繁華街ではなさそう。だれかと一緒というわけでもなさそう。酔っている感じもしない。
「どうしたの?」と尋ねると、少し笑いながら「いやあ、忙しいかなと思って」と言うんですが、お店に来ようとしている様子でもない。
「どこにいるの?」と尋ねたら、一瞬沈黙があって「××の海」という回答が返ってきました。
私はイヤな予感がして「いますぐ行くから待ってて」と言いました。
お客様は、私がお店にいることをわかっていたので「来れるわけないじゃん」と笑っていたんですよね。
でも私は、実際に電話を切ると同時に店を出て、お客様のもとへ駆けつけたんです。
お客様は「ほんとに来たwww」と大笑い。私も「いや来るでしょwww」と大笑い。
いま考えたら、仕事中に来店中のお客様放って行ったので、とんでもないことですよね。事実、あとでお店からイヤというほど怒られました。
でも、不思議と来店していたお客様方からはお叱りを受けませんでした。
急に飛び出したのでびっくりさせてしまいましたが、翌日事情を話して謝罪したところ、みんな笑いながら「おまえらしくていいね」と言ってくださった。
私にそんなイメージがあるんだな、と少し驚いた出来事でもあります。
お客様に駆けつけると決めてから変わったこと
Kちゃんとの件があって以来、私は真夜中であろうと、パートナーと一緒だろうと、お客様に何かあると飛んで行くようになりました。
損得で考えたら、正直割に合わないかもしれません。時間もエネルギーも使うし、体力的にきついときもあります。
きっと、ほとんどのホステスはそんなことはしないだろうし、お客様が何かあって連絡をくれたとしても『駆けつける』という発想すらないかもしれません。
でも、あのときKちゃんが見せてくれたのは、損得を超えたところにあるものだった。だから私も素直に嬉しかったし、気持ちが晴れたんだと思います。
だから、お客様のもとへ駆けつけることに、迷いはありませんでした。
お客様に何かがあって、私に連絡をくれるということは、それそのものが信頼だと思うんです。
私を信頼してくれているから、つらいときや苦しいときに「こいつなら聞いてくれるんじゃないか」と思ってくれる。私を思い出してくれる。
その期待に、私は応えたかった。
よく「信頼関係はどうやって作るんですか」と聞かれることがありますが、こういうひとつひとつの積み重ねなんだと思います。
私と同じことをすべきだという話ではありません。
そこではなくて、テクニックや会話術以上に、いざというときに相手のために動けるか。お客様のためにどれだけのことができるか。
何もできなかったとしても、どれだけの気持ちを持って相手と向き合えるか。ここが、大きな差になるんじゃないかと感じます。
まとめ
「お客様に何かあったら、すぐに駆けつける」これは、損得勘定だけでは絶対に生まれない行動です。
Kさんが見せてくれた行動が、私の価値観を大きく変え、その後の接客スタイルの土台になりました。
もしあなたにも、心から信頼できる存在との出会いがあったなら、それはきっとあなた自身の接客にも活かせるはずです。
頭で考えるより先に、体が動いてしまう。そんな瞬間を、お客様との関係の中で少しずつ増やしていってくださいね。

